高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第4回グランプリ 受賞作

優秀賞

大きな鎧をまとった小さな人間たち

桐朋女子高等学校 2年 見上 愛

 池袋西口公園前の東京芸術劇場シアターウエストで上演された『池袋ウエストゲートパークSONG&DANCE』。木枯らし吹き荒れる公園とは打って変わって、開演15分前から始まる熱いダンスバトルで劇は幕を開けた。
 1997年の池袋には、行き場のない若者たちの二つの派閥があった。染谷俊之演じる安藤崇(通称キング)率いるG-Boysと、矢部昌暉演じる尾崎京一率いるレッドエンジェルス。徐々に激化する派閥抗争。それを止めようとする崇の高校時代の同級生である、大野拓朗演じるマコト。彼らの行きつく先は・・・?そして池袋の運命は・・・?
 この作品を観て驚いたのは、演出のこだわりだ。原作の持つ熱さと勢いを保ちつつ、演劇ならではの空気感をつくる工夫が感じられた。例えば衣装。この作品ではキャストのほとんどがG-Boysとレッドエンジェルスの両方を演じる。普通なら頭が混乱してしまうところだが、衣装の色によって分かりやすく整理されていた。青はG-Boys、赤はレッドエンジェルスのイメージカラーとし、役者たちは舞台上で青や赤の上着に着替える。そして、マコトをはじめとする中立的な立場の人はモノクロの衣装に身を包む。この切り替えが分かりやすく正確に物語を進めるカギになっていた。また、役者が黒子になり大道具を動かしている所には遊び心も感じられ、緊張感とのバランスが良かった。
 そして最も注目すべき点は、観客が舞台を挟んで対面する挟み舞台を使った演出にあると言えるだろう。舞台の向こうには常に観客がいる。私は初め、そのせいで物語に入り込めずにいた。しかし、いつの間にか前のめりになりつつある自分や周囲の姿勢に気が付いた。“劇場”は物語が進むにつれ、格闘技やスポーツの試合の“会場”のようにもなっていたのだ。この臨場感は挟み舞台で無ければ出なかったに違いない。
 次に、ミュージカルとしての魅力にも触れよう。
 楽曲はクラシックからポップス、ラップ調のものまで幅広く、しかも違和感なく使用されており、表現に厚みと説得力が生まれていた。 また、ダンスにもこだわりが滲み出ていた。最もそれが分かりやすく出ていたのが、両チームが戦うシーンだ。私の知る多くの舞台では、戦いのシーンにはアクションや殺陣が用いられていた。が、この作品では基本的にダンスで争いを表現していた。力強いキレのあるダンス。鋭い表情。何度もある戦いの場面が常に熱く、観客のボルテージは高まっていく。
 これは確かにダンスの効果であるのだが、それだけではない。役者一人一人のパワーの賜物だ。特に染谷俊之の演技は圧巻であった。彼の演じるキングはほとんど表情を変えることなく常に冷静だ。しかし、目の奥に熱く輝くものが見える。一番感情が外に出にくい役がこうして真に熱さを持っていると、劇全体の熱量はさらに上がる。
 そして物語は進み、とうとう最終決闘のシーン。どちらのチームも今まで手にしていなかった武器を持ち、ただならぬ雰囲気がただよう会場。私は完全に油断していた。またダンスが始まるのだろうと。しかし、予想は大いに裏切られた。向かい合った2チームは同時に走り出し、武器を振り回す。激しい戦いが繰り広げられ、暗転。
 明かりがつくとそこは2017年の池袋西口公園。マコトと崇がベンチに座っている。平和になった池袋。そこでマコトは「最近世の中がどんどんあの頃の池袋みたいになっている気がするんだ。」と呟く。
 孤独と行き場のない怒りが渦巻いていた20年前の池袋。確かに現代社会と大して変わらない。SNSの普及で、一見孤独と無縁になったように見える若者たち。しかし実際は、大きな鎧をまとった小さな人間に変わりないのだ。
 劇場を出て冷たい空気が頬に触れれば、池袋ウエストゲートパークには誰かの悲しい心の叫びが風に吹かれて聞こえてくる。

[公演名] 池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE
[主催団体/劇場] 東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、ホリプロ/東京芸術劇場シアターウエスト

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