高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第4回グランプリ 受賞作

最優秀賞

小さな戦争

慶應義塾女子高校 3年 小野真子

 2017年12月、私は池袋西口にある東京芸術劇場、シアターウエストの扉をくぐった。ちょうど開演15分前、ダンスバトルが始まる時だった。 客席は2面に配置されていて、真ん中が舞台になっている。繰り広げられる激しいダンス。自分が観劇に来たとは思えない激しさとMCのテンションの高さにまず圧倒された。
 約10分間のダンスバトルが終わり、少しすると劇が始まる。
 話は1997年の池袋、行き場のない男たちは2手にわかれて争っていた。タカシ率いるG-Boys、そして海外から戻ってきたばかりの京一が率いる、レッドエンジェルス。タカシの親友であるマコトはどちらにも味方せず、次第に対立が激化していくことにただただ心を痛めていた。そんなある日、彼の元を1人のジャーナリストが訪れる。"自分はこのビデオで世界を変える"そう言うジャーナリストに説得され、マコトはタカシと京一に話を聞くが、その矢先に抗争でレッドエンジェルスに犠牲者が出た。争いは歯止めが効かなくなり、加速していく。この中でマコトは何ができるのか?池袋の未来は…?
 有名なwest side storyやロミオとジュリエットと同じく、街が2つの勢力に分かれて争う話だが、大きな違いは恋愛要素がないことだろう。今回の舞台は1人、小学生くらいの女の子がいる他は全員男性キャストだ。それに加え、前述の二つと違い、主人公が中立の立場であることが悲劇性ではなく、やり場のない彼らの葛藤や、1人という存在の無力さを強く感じさせる。
 また、舞台セットの上からつるされた白いIWGPの文字は照明によって赤や青に変わり、マコトや観ている私たちの心情を表しているようにも、見ているだけで何も出来ない私達を嘲っているようにも思えた。
 開演前のダンスバトルの他、劇中でも役者陣が力強くダンスを見せる。特に全員がG-Boysとして10人以上でまとまって踊る場面の迫力は流石のもの。G-Boys対レッドエンジェルスで対抗して踊る場面も見事だった。
 なにより、舞台と客席が近いのが良かった。踊っている振動まで伝わってきて興奮をかきたてられる。私は一番後ろの端の席だったが、真ん中に舞台が設置されていることもあり、臨場感は十分。役者の入退場も客席脇の通路を使うことが多く、小さなところからも身近に感じられた。 また、激しく、キレのあるダンスを踊る他の役者陣がいるからこそ、京一役矢部昌輝のバレエの動きが入ったダンスが目を惹いた。指先まで神経が使われ、優雅に踊る京一は細いからだと相まって色気さえ感じさせる。
 マコト役大野拓朗は前半のマコトが自分に出来ることを葛藤している場面の演技が秀逸だった。何かをしなくては、という焦りと、しかし自分に出来ることなどない、という諦めが共に伝わってくる。
 ダンスが劇とうまく溶け込み、一体化していた反面、歌の場面で前後に多少違和感が残ったことが残念に感じられた。また、プロローグのような場面で、激しい曲と、周りのダンスに押され、それぞれの歌が聞こえにくかった。公演を重ねるうちにうまくこなれていって欲しい。
 最後に、私が心に残った場面がある。初めの、マコトが私たちに語りかける場面だ。1997年から2017年―本当にこの20年で時代はよくなったのか、争いがなくなったのかと。
 1997年当時、マコトたちは皆、高校生の私と同年代の若者だった。やり場のない感情を彼らは踊ること、争うことで発散していた。舞台を通じ、私はマコトに聞かれたように思った。"俺たちは自分の戦争をこう終わらせた。俺たちと同年代の君は、今を、これからをどう動く?君の戦争の中でどんな役割を果たす?"と。
 20年前から時代は大きく変わっている。ネットなどの発達で便利になった反面、表にでないところで感情を発散させている人も多い。見えにくくなっただけで、決して戦争がなくなった訳ではないと私は思う。だからこそ、2020年に池袋ウエストゲートパークがなくなる、その前に、当時の彼らと同年代でこれを観た私たちがマコトから渡されたバトンをしっかり受け取らねばならないのではないか。具体的にどうするというわけではないし、どんなものかは直面しなければ分からない。直面しても分からないかもしれない。簡単に結論が出るものでは決してない。しかし、考え続け、いつか次の世代に自分なりのバトンを渡す義務があることをこの舞台は語っているように思える。
 池袋ウエストゲートパーク、この舞台をダンスと歌で楽しむだけではなく、しっかりとマコトたちの声を未来に届けたい。

[公演名] 池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE
[主催団体/劇場] 東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、ホリプロ/東京芸術劇場シアターウエスト

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