高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第3回グランプリ 受賞作

優秀賞

命の火

神戸女学院高等学部 1年 牛尾 玲

 525,600minutes. How do you major, major in a year?
あなたにとって1年は“たった”52万5600秒だろうか。それとも52万5600秒“も”あるだろうか。RENTの登場人物にとって、1年は“たった”の52万5600秒であるのだろう。
 -1984年12月24日、クリスマスイブの午後9時。ニューヨークのイーストヴィレッジに住むマークとロジャーは元ルームメイトのベニーに家賃を迫られていた-
RENTは世界中にファンをうみ、ミュージカルの歴史を変えたと言われている。作者のJonathan Larsonが初演の初日前日に亡くなったことでも知られている。
 この作品は1,984年のクリスマスイブからの1年間を舞台にHIVや同性愛、貧困やドラッグといった一見大変重い内容を扱っている作品だ。映画プロデューサー志望のマーク、HIVで死が訪れる前に素晴らしい曲を書きたいと願うロジャー、HIVの苦しみから逃れるためにドラッグに頼るミミ、怪我していた所を助けられHIV患者であるということからも惹かれあっていくコリンズとエンジェル、自由奔放なマークの元恋人であるモーリーンと彼女の新しい恋人ジョアンを中心に物語は進んでゆく。
 42曲もある曲の中で、まず印象に残るのが序盤のRENTである。私はこの曲を聞いた瞬間、あまりの迫力とかっこよさに鳥肌が立った。家賃も払えない上に部屋は凍えそうに寒い。絶望に近い状況にもかかわらず、照明は一層明るくなりキャスト全員が激しく動き回る。そして“We aren’t gonna pay rent!!”と高らかに宣言するのである。正反対ともいえる表現方法でマークとロジャーの強い決心を表しているこの曲は、いつでも笑顔で強く夢に向かって生きるというRENTという作品そのものを体現していると感じた。
 次に素晴らしいと言えるのが“Over the Moon”である。Over the moonはモーリーン役であるEden Espinosaの存在感が光る。Moo!!と抗議の声を挙げるところでは観客も共に声を挙げ舞台と観客が一体化していた。モーリーンがもっと声をあげろ!と言えば言うほど客席が盛り上がっていった。勿論、日本でもこの演出はあるが日本とは盛り上がりが全く違い感動した。
 私が最も好きなのは2幕はじめの“Seasons of love”である。全員が一列に並び歌いあげる。だんだんと盛り上がり最後は皆で手拍子するが、一幕最後のLa Vie Bohemeのように思わず踊りだしたくなるような盛り上がりはない。楽しく明るい日常はHIVによって徐々に破壊されていき、些細なことで皆がバラバラになり突如として悲しみが訪れる事を暗に示しているのではないかと感じた。
 たくさんいる登場人物の中で大きな役割を担うのが、途中でHIVによって命を奪われるエンジェルである。エンジェルが亡くなる直前の、白い布を使った演出が印象的であった。エンジェルは動きづらそうなその長い白い布をまとったまま激しく踊り、そして布の下にキャストが入ってゆく。HIVという不治の病に侵されつつも最期まで強く生き、彼、いや彼女の親しい人の心の中に強く印象付く様子が美しくも儚く演出されていた。コリンズがエンジェルとの思い出を話すI’ll Cover You (Reprise)は大変切なかった。コリンズの半ば叫ぶような「I will cover you.」では思わず涙があふれ出た。エンジェルがいなくなる事によって、いつも一緒にいたメンバーはバラバラになっていく。自分を偽らず愛を素直に伝え皆を結んでいた彼女の不在によって各々が素直になりきれず、本当にしたい事、言いたい事、そして本当の自分を見失っていくように感じた。
 1人1人が自分を愛し人を愛そうと、常に明るく皆と笑い合おうと、毎日を強く生き抜こうと1日1日を懸命に生きもがき続ける。たった1年、52万5600秒は過ぎ去るのがあっという間で自分がこの世にいたという事実さえ残せるか否かもわからない。家賃/RENTの締め切りなどよりも遥かに重い、“生”の締め切りが近づいている。そのリミットはいつ訪れるか想像もつかず、それでも死が確実に迫ってきている事を感じている。そのような中で各々が不器用ながらも互いを愛している様子は胸に迫るものがあった。
 この舞台はいつでも観客に問いかけているのだろう。あなたは自分を、人を愛していますか、と。昨日でもなく明日でもない。ただ今日1日を生き抜いていきたいと思わせる。だからこそ、私のようにRENTの魅力に取りつかれる人が多く、今も愛され続けている舞台なのであろう。RENTのカーテンコールにならって、この言葉で締めようと思う。
 Thank you Jonathan Larson.

[公演名] RENT:FILMED LIVE ON BROADWAY
[主催団体/劇場] THE HOT TICKETS/ Nederland Theatre

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