高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第3回グランプリ 受賞作

優秀賞

戦争と平和 - 技術と武器

東京都立総合芸術高等学校 3年 中村彩美

 戦争と平和。この二つは相反するもののようで、表裏一体である。千秋楽、観客たちは熱い拍手を送り続ける。涙を流すことは許されなかった。
 一人の男・ネッド(千葉哲也)は、ドローンによる新たな技術を開発した。彼は、自分の仕事が平和のための抑止力になると信じ、誇りを持っている。しかし兄のダン(中嶋しゅう)はその仕事内容を知ると、「お前が作っているのは兵器だ」と叱咤する。仲の良い兄弟だからこそ、お互いに相手が自分を理解してくれないことに苦しむ。自分と同じ感性だと信じていたのに、と。
 一方で、取引相手の女性・ロス(那須佐代子)はネッドの技術を褒め、きっと国防のためになると伝える。だが、兄の説得や家族の反応を想像するうちに、ネッドは自分の仕事に疑問を持つようになっていた。いや、目を逸らしていた問題点を認識してしまった、の方が近いだろうか。本当はネッドにだって解っていた。「抑止力になる」なんて、ただの言い訳なんだと。自分は、戦争のための新たな兵器を生み出したのだと。
 ネッドは1人の技術者としての探究心から生み出したが、それは同時に兵器をも生み出していた。ライト兄弟の飛行機も、ノーベルのダイナマイトも軍事に使われた。なら、技術を追及してはいけないのか。休憩中も、まるで上演中かのように劇場内は静かだった。
 そして後半、ロスの仕事仲間ブルックス(斉藤直樹)が現れ、ネッドを精神的に追い詰めていく。それは「説得」という名の「拷問」。データにバグを入れて逃げ出すネッド。「生活がかかっている」とロスは発狂しかけるが、彼女にとってもブルックスにとっても、この一件は大きな仕事の失敗でしかないのだった。だが、麻痺して誰もおかしいことに気づかないのが戦争の怖さではない。 気づいたとしても圧力で黙らされる、それが真の怖さだ。戦場は一切出てこないが、戦争は戦場ではなく、ここで起こっているのだった。いま、ここにある本当の武器は…。
 役者全員が、発する言葉をとてつもなく大切にしている。4人それぞれが生きるために思いを巡らせて錯綜する。その様子はエネルギーに満ち溢れ、そして、普遍的だ。一緒に過ごしているようなまでの自然な演技。家族との触れ合い。それが一気に身近な出来事に引き寄せる。
 こんな演劇が今、あるだろうか。
 社会風刺でありながらあからさまな不快感を与えない。役者の熱がこれでもかというほど伝わってくる。どこまでも上質で濃密な空間。「思い」から上演される公演は少なくなっていないだろうか。
 那須さんは自身のツイッターで、「いまの若者にぜひ観てほしい」と仰っていた。そして定価5900円に対して高校生1000円、学生2000円という価格設定だったが、実際どの程度の学生が観に行ったのだろう。学校や授業でいくら戦争について考えろと言われたって考えないかもしれないが、この公演を終えて考えない者はいないだろう。観るべき舞台、というのはこういうものだ。そして私は、演劇とはこういう存在であってほしい。
 この演劇が上演され続けることが最大の抑止力である。

[公演名] いま、ここにある武器
[主催団体/劇場] シアター風姿花伝/シアター風姿花伝

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