高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第3回グランプリ 受賞作

優秀賞

私たちに訴えかけるもの-いま、ここにある武器

早稲田大学本庄高等学院 2年 円城寺すみれ

 8月21日、シアター風姿花伝。真っ白な台の上にはスポットライトに照らされた一つの黒い椅子。奥には一輪のバラが美しく照らされている。客席は静かにその舞台を囲む。そこには、私たちの心に訴えかける、そんな舞台が存在していた。
 この舞台はジョー・ペンホールが執筆した“Landscape with weapon”(兵器のある風景)を原作に用いた舞台である。航空科学研究者のネッドは「平和のために」無人飛行機誘導プログラムを開発した。しかし、その想いは、国家の権力と軍需産業の発展への執着に飲み込まれ始めていた。それが気にかかった兄のダンによる猛反対と、契約先の営業部長ロスとのやり取りの中で、自分のしていることに対する自信と確信が、不安と迷いに変わっていく。ダンと、ロス、そしてブルックスとの会話を通し、理想と現実のはざまで「自分のしていることとは」、また「正義とは」何なのか、苦悩していく姿を描く。
 舞台のすべては女性の静かな息から始まる。吸った空気がハミングになっていき、会場に響き渡り、暗闇に包まれる。男性と黒い椅子が向き合っている姿を明かりが照らす。思わず息を飲む。会場が張りつめた空気に支配されたあと、物語は最初とは打って変わり、日常的な風景、何気ない兄弟の会話から始まっていく。何気ないが、絶妙なリズム感とユーモラスのある会話。それらがすっと物語の中に私たちを引き込んでいき、ふと気がつくと夢中になっている。2時間半という長めの会話劇にもかかわらず、そこからずっと物語の世界の虜となっていた。
 膨大な量のセリフをテンポよくそして一つ一つ丁寧に扱っていく役者たちの技と感性に唸らされる。ネッド演じる千葉哲也は自然な演技だがきちんと軸があり戯曲の言葉を引き立たせていく。ダン演じる中嶋しゅうは安定感のある演技で全体をしっかり支える。ロス演じる那須佐代子は、勢いの向きが明確で爽快な演技を発揮し、ブルックス演じる斉藤直樹は奥深くの感情を丁寧に扱い、それらをうまく表現する。このような、ひとりひとりの類い稀なる魅力が言葉のやりとりのなかでうまく溶け合い芯のあるメッセージ性を持つ舞台を形成していく。
 また、場面転換の音楽が会場全体の空気を揺るがすように大きく鳴り響くことにより、舞台に躍動感をもたらすと同時に観客を巻き込んでいく。そしてじわじわと明るくなる光とぱっと明るくなる光の緩急がさらに舞台を引き締める。光により注目させる場所の配置も巧妙であった。
 1幕の「武器」の運命を握るものとしての苦悩から2幕の「武器」の運命を奪われたものとしての苦悩への転落の流れは逸品であり、会話中での見え隠れする意思、冷たい目線、笑い声すべてがじわじわと恐ろしさに拍車をかけていく様子に身震いする。  この舞台には実際の武器は一切出てこない。物語を通して戦争について語るときはその実際の場面を用いることが多いように感じるが、今回の舞台はそのような場面からし距離を置いたところから問題提起していく。しかし、その分技術や才能、そして言葉や表情など身近にある、武器に見えないような武器たち、まさに「いま、ここにある武器」が、象徴的に描かれており、これらによって実際の「武器のある風景」を作り出していく、ということを訴えているかのようであった。あったはずの自分の武器である技術や才能を相手の武器である巧みな言葉や表情、権力によって奪われ、やられていってしまうネッドをやさしいオルゴールの音が包み込む様子は異様であり、心に深い印象を残す。日常は明るく現実的に描き、拷問の最高潮時は暗く、幻想的に描く。その対比も恐ろしい。
 転落し、悩みに悩んだネッドは抜け殻のようになってしまう。会話の中に1幕を思い返すような台詞が出てくるが、冒頭で美しく咲いていたバラはもう枯れてしまい、状況は全く異なるものであることを象徴する。
 しかし、ネッドはそのような中でもダ・ヴィンチへの憧れはなくさず持ち続けていく。その姿は少しふれたらすぐにばらばらになってしまいそうな危うさや1度夢が破れた儚さとともに僅かな希望を感じさせ、奇妙な気持ちにさせられる。
 現代の世界の状況もそうなのかもしれない。壊れてしまったという事実は完全に取り消すことはできない、そして今はそのような取り戻すことのできない状況だ、という警告とともに、そのような中でも「平和」ということに向けて小さいことから戦えるというメッセージに私には聞こえた。
 100席程度の小さな劇場。だからこそ、伝えることのできる繊細な心の動き、訴えることのできるメッセージの濃密さ。それらを存分に生かす舞台。2時間半で受け取ったたくさんのものは、終わった後も心の中に残り、少しずつ成熟していく。あの感覚を、私はきっと忘れないだろう。

[公演名] いま、ここにある武器
[主催団体/劇場] シアター風姿花伝/シアター風姿花伝

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