高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第3回グランプリ 受賞作

最優秀賞

フレンチミュージカルの可能性

清林館高校 3年 久留原有希

 近年、人気作の再演が多い帝国劇場に、新しい風を吹き込んでくれた。
 フランス革命を題材としたこの作品は、日本のミュージカル界において革命的な作品であったといえる。
 フランス革命を題材にしているという点においては宝塚歌劇団の代表作『ベルサイユのばら』と類似しているが、こちらは貴族側から見た革命を描いている。一方『1789』は民衆側から捉えた革命を描いているために、比較的観客が感情移入しやすい。
 舞台は18世紀末のフランス。主人公は貧しい農夫であるロナン。民衆たちが貧困に苦しんでいる今の状況を変えるべく、パリへ行く。そこで出会ったロベスピエール、ダントン、デムーランら率いる革命派に身を投じることとなる。ロナンはパリで出会ったマリーアントワネットの従女であるオランプと恋におちてしまうが、身分が壁となりうまくいかない。果たして革命と恋の行方はいかに・・・というのが大まかなあらすじだ。
 次々と話題作を生み出すことで有名な小池修一郎氏の演出という点でも注目度が高かったが、なにより人々を惹きつけたのはフレンチミュージカルであるという点だろう。日本で上演されているミュージカルはブロードウェイかウェストエンド発のものが主流であるからだ。特徴は、若者にも受け入れられやすい現代風の音楽だ。若者にも劇場に来て欲しいという願いがあったからだという。従来のミュージカルで使用する伴奏は生のオーケストラが主流であるのに対し、フレンチミュージカルは楽器本来の音だけでなく、コンピュータで作成した音を入れた録音の伴奏を使うことが多い。そのため、どの曲も耳に残りやすい。2幕のテニスコートの誓いのシーンで革命家たちによって歌われる「誰の為に踊らされているのか?」が特に印象的だった。何があっても自分たちの信念は変えるまい、といった強い心意気が、ビートの効いたロックの力強いリズムによって上手く表現されていた。このようにノリが良くアップテンポな曲調のものが多い分、オランプの歌う「許されぬ愛」やアントワネットの歌う「神様の裁き」といったバラードのナンバーが余計に切なさを増しており、その対比がよかった。
 舞台上にはあらかじめ折りたたんである可動式のもう一つの舞台があった。これが身分の差を上手く表現していた。マリーアントワネットや貴族が登場するシーンなどでは、その可動式の舞台が上から降りてくるのだ。そうすることにより、本来の舞台=下にいるのが平民、可動式の舞台=上にいるのが貴族というように、身分が一目見ただけで理解できる。この装置は、目には見えないが平民と貴族の間には壁があることを観客に分かりやすく伝えてくれた。これはフランスでの公演の際にはなかった演出であり、日本の技術力と視覚的に物事をわかりやすく伝える能力の高さを伺わせた。
 主人公ロナンに扮する小池徹平は、昨年のミュージカル『デスノート』の時よりも歌唱力に磨きがかかっていた。その力強い歌声は、自分と同じ境遇の民衆や愛するオランプを絶対に守り抜こうという意志の固さを上手く表していた。ただし、まだ高音が弱い箇所もいくつかあったため、そこは次回作に期待したい。オランプに扮する夢咲ねねは上品な佇まいが美しく、安定した歌声がオランプの芯の強さと重なった。古川雄大、上原理生、渡辺大輔ら革命家は勢いがあり、特に激しいダンスシーンが見応えがあった。
 ラストでバスティーユ牢獄に侵入したロナンは、銃で撃たれ命を落とす。多くの登場人物が歴史に名を残す人間であるにも関わらず、主人公とそのヒロインだけがそうでないのは、このラストが理由であろう。民衆のために立ち上がり、革命に生き革命によって亡くなった民衆や、自分の愛する人を革命で失った人間は数え切れないほどいる。“多くの人々”として括られてしまう彼らにも、物語はあった。2人は決して架空の人物ではなく、“多くの人々”全員が確かに存在していたことを観客に教えてくれるのだ。
 「苦しい時にも深刻に落ち込んで見せない」この言葉はフランス人の特性を最も的確に示していると、演出家の小池氏は語っている。昨年末に起きたフランスでの同時多発テロの際、現地の人々は敢えてカフェや路上の席に居座り続けたという。その姿は、テニスコートで誓いをしたり、勇敢にバスティーユ牢獄へ侵入したりした18世紀末の人々の姿と重なる。権力に屈することなく立ち向かうその姿勢は、現在のフランスの人々にも強く受け継がれている。このような人々が生み出したからこそ、この作品はより魅力的なのであると考える。
 今までにない切り口からフランス革命を紐解き、ポップな音楽によって親しみやすくしているこの作品は、冒頭で述べたとおり日本のミュージカル界にとって革命的な作品なのだ。いい意味での異色さから、今後の日本での再演と多くの国での上演を期待したい。

[公演名] 1789 -バスティーユの恋人たち-
[主催団体/劇場] 東宝/帝国劇場

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