高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第二回グランプリ 受賞作

優秀賞

スクリーンから舞台へ

東京都立保谷高校 1年 小林環蒔

 最近の映画館では舞台やコンサートの映像を上映する「ライブビューイング」が行われている。海外の一流作品を飛行機に乗らずに気軽に観に行けるので学生の財布にも優しく贅沢な体験ができる。
 アカデミー賞にノミネートされた映画「リトルダンサー」がミュージカル化され、今回2014年9月28日のロンドン、ヴィクトリアパレス劇場での公演が世界中の映画館で「ビリー・エリオット ミュージカルライブ /リトルダンサー」として上映された。
 舞台はイギリス北部、大規模なストライキに湧く炭鉱の町。11歳の主人公ビリーは炭鉱労働者の父と兄、そして認知症の祖母と暮らす。彼は亡くした母の亡霊と度々会話することで心の隙間を埋めようとしていた。ひょんなことからバレエのレッスンに参加し始めたビリーは、女教師に才能を見出され密かにロイヤルバレエスクールを目指し練習に励むが、家族に知られ猛反対されて夢はうち砕かれる。ある日息子の踊る姿を目撃した父は、その思いを理解し、オーディションの金を工面しようと激しい葛藤の中スト破りを企てる。始め炭鉱夫仲間の反感を買うが、事情を知った労働者達が差し出した資金でビリーはオーディションに再度挑戦する。
 厳しい社会情勢の中、お互いを思いやる事を忘れかけ、すれ違っていた家族の心の溝がバレエというビリー少年の夢を通じて次第に埋まっていく様子が、監督・演出スティーブン・ダルドリー、脚本リー・ホールの手により細やかに描かれている。
 アン・エメリーがコミカルに演じる祖母の回想シーンでは、彼女の亡き夫に扮したダンサー達が上手から下手にかけて段々と移動していく踊りが時間の経過をとても分かりやすく表現している。また、ザック・アトキンソン演じるビリーの親友が女装趣味を告白し、二人で着替えを楽しむシーンでは、軽やかなタップダンスと巨大化したドレス達によって古き良きスタイルのミュージカルナンバーを楽しめる。炭鉱夫と警察が激突するシーンでは、いがみ合う大人達とバレエのレッスンを無邪気に楽しむ子供達の様子が同時に描かれており、なんとも言えないせつない気持ちになる。
 バレエはもちろん、ジャズやタップ、アクロバットなど多種多様なジャンルのダンスも本作のみどころだ。
 中でも、オーディションのチャンスを逃したビリーが暴動の最中、行き場のない自分の感情を露に全力で力の限り踊り続ける場面。ここは劇中で最も魅力あるシーンだ。炭鉱夫と警察の激しい対立、そしてビリーの沸点に達した怒りを表す音楽、エリオット・ハンナ演ずるビリー少年の迫力あるダンスの技術と表現力に圧倒される。細い体にフィットした白いポロシャツと赤いジャージ姿で大きく体を曲げ伸ばしたり回転する度に、ジャージの脇の白いラインの動きが美しく脳裏に焼きつけられる。ジャージがこれ程までにダンスを魅力的に演出するアイテムになるとは夢にも思わなかった。タップを効果的に使うことにより、怒り、苦しみ、痛みといった激しい感情の揺れが床に鳴り響く靴の金属音と共に観客へストレートに伝わってくる。振付のピーター・ダーリングは「Angry dance」というこの曲に彼独特の手法でタップを取り入れたが、これはかつてのミュージカル作品では見られなかった新鮮な表現で意表を突かれた。私は思わず座席で大きな拍手を打ち鳴らしそうになってしまった。
 オーディション会場で審査員から「踊っている時何を感じるか」と聞かれ、彼は体の中で電気が走るようだと答えて踊り出す。歌詞の意味が一つ一つ胸に染み込むエルトン・ジョンの音楽に合わせて彼は燃え上がる気持ちを思う存分曝け出し、父と審査員を圧倒する。
 見事合格したビリーは母の亡霊に別れを告げて町を後にする。
 魅力的な役者陣、映画の時と同じ製作陣だからこその全体的なバランスの良さ、そこに加わる素晴らしい音楽により私にとって現代ミュージカルの理想形と呼ぶに相応しい作品ができあがった。ダンス、歌、芝居、この3拍子が揃った作品と巡り会えた事に心から感謝する。そして、ライブビューイングで舞台に縁のない人にも気楽に楽しめる様に、今後も沢山の素晴らしい作品を上映して欲しい。

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