高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第二回グランプリ 受賞作

優秀賞

現代に必要な衝撃

東京都立総合芸術高等学校 1年 中村彩美

 これほどの衝撃をうけた作品がいままであっただろうか。約3時間の公演を観終わった私の心には、大きくて重たいものがずっしりと残っていた。
 舞台は現代のモントリオール。5年前から言葉を発さなくなった女性・ナワルが死に、公証人エルミルが双子の元に遺言書を届けに来るところから、物語は始まる。姉・ジャンヌには死んだと聞かされていた父を、弟・シモンには存在すら知らなかった兄を探して手紙を渡してくれという内容だった。無茶苦茶な遺言に、はじめはふたりとも従わない。しかし母の過去、沈黙の理由、父と兄の存在が気になりはじめたふたりは、ナワルの故郷・中東へと旅立つ。ナワルの人生を追体験するように、ストーリーは動き出す。

 戦慄、鳥肌。

 すべてが繋がった瞬間のゾワッとする感覚は今でも忘れられない…。まるで自分のことのようにショックを受けた。劇中で双子の受けている衝撃を、そのまま受けていた。ミステリー小説のように謎を解き明かしていくこの展開は、私たち観客を作品に引きずり込む。観客はいつの間にか見事に双子と同じ立場に立たされていたのだ。私は先を読まず、劇中の双子と一緒に謎を解いていったので、後半は思ってもみないどんでん返しの連続だった。
 ナワルからの、息子としてのニハッド宛と、双子の父としてのアブー・タレック宛の2通の手紙を手に男は泣き崩れる。双子を身ごもらせた相手は、探し続けていた母だった。私は、ナワルの初恋の相手ワハブ、狂った殺し屋ニハッド、監獄で母と知らずに強姦したアブー・タレック、この3役を岡本健一さんが演じるというのを良い意味で皮肉に感じた。そして明朗快活な少年、極悪な狂人、どちらもハマり役に思わせる豊かな表現の幅に私は感銘を受けた。また、ナワルを演じる麻実れいさんの演技力には圧巻だ。10代から60代までを声のトーンや息づかい、繊細な身のこなしで大胆に演じ分ける。まるで違和感を感じさせないのが麻実さんの凄いところだ。純粋な少女、芯の強い女性、慈愛に満ちた母…。複数の役者が演じていたら、ここまでの感動は得られなかっただろう。
 この話は、ひとりの女性の人生を通して戦争の悲惨さを伝えている。レバノンの内戦を背景に描かれていて、実際に起きた事件が元になっていたりもするが、固有名詞は出てこないので特定はできない。私は作者のワジディ・ムワワドが、こういったことはどこの国でも起こりうることなんだと暗示しているのだと思う。日本が終戦を迎えて70年経った今、この国は戦争を体験していない人々で構成されはじめている。戦争を知っているつもりでも、実態は知らない。私もそのうちの一人だ。だからこそ今、この時代に必要な作品だと思った。
 巧妙に練られた伏線を見事に回収してみせた『炎 アンサンディ』。上村聡史さんの演出によって緻密につくりこまれた世界は、終演後もしばらく私を離さなかった。
 舞台は最後、出演者7人がひとつの布の下に入って幕を下ろす。ゆっくりと暗くなっていく中、私の頭には生前ナワルの発した最期の言葉が浮かんでいた。
 「こうして一緒になれたから、これからは大丈夫。」
時を経てようやく家族になれた光景に、涙を流さずにはいられなかった。

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