高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第二回グランプリ 受賞作

優秀賞

見つけ出す、舞台。

北海道札幌開成高校 2年 中澤千智

 「本当はノケモノなんていやしない。そう思う人がいるだけだ。」
 小林賢太郎(敬称略)演じるイルマは、作中でそう語っていました。
 除け者。仲間から遠ざけられた者。仲間外れにされた者。多くの人は日々の中で、人と同じであることを望みます。しかし時に、自分は特別だと思われたい、そう願います。
 そんな、人の矛盾に問いかけた作品、それが「ノケモノノケモノ」というお芝居だったと私は思います。
 舞台中央には、屏風のような板がポツンと。上演前、これを見ただけではどんなお芝居が始まるのか想像もできませんでした。開演すると、物語はプロジェクションマッピングという技法を使った、屏風に映された絵を背景に進んでいきます。演出も務める小林賢太郎が手がけた沢山の絵は、独創的な世界観と気持ち良いくらいにマッチしていて観客を引き込ませてくれました。
 物語の主人公、音尾琢真が演じる原宮慎平は、大手自動車メーカーに勤める社会人。物語冒頭で原宮は、ブランド品の持ち物や有名人との面識経験など、自分の肩書きなどを後輩に自慢してばかり。これがどういう風に後に関わってくるのか、どのような伏線なのか、興味深くもありました。「獣ヶ淵」という田舎町で仕事をして、帰りのバスを待っていると、小林賢太郎演じるイルマが登場します。独特のキャラクターを持つイルマは、これからの物語を暗示させるような異様な雰囲気を醸し出していました。イルマは原宮とバスに乗り込みます。原宮が連れて行かれた場所は、地球上の生物を生み出す「創造主」が住む異世界でした。
 創造主は、沢山のパーツを使って生物を作ります。主な生物を作っていくうちに、余ってしまった残りのパーツ。それらによって作られたのが、魚だけれど鳥の羽が生えてる「トビウオ」など、普通の動物とは少し違った動物。それらが原宮には、『除け者』に見えるのでした。
 物語中盤、異世界の中にある図書館へやって来た2人。そこには人間を含めた、世界中にいる様々な生物の設計本が置いてあります。図書館の背景も小林賢太郎が描いた絵で、色彩豊かな多くの本たちは、むしろ怪しさをも感じさせる色合いでした。そこでイルマは原宮の設計本を見つけ、彼の何事も中途半端にやってきた過去を細々と語ると、原宮は後輩への自慢を思い出し、そしてやっと自分の在り方に気付きます。「自分は周りの色によって身体の色を変えるカメレオンだ。そして自分は、特別であると他を威嚇する、蟹だ。…周りと同じじゃないと不安で、なおかつ、自分は特別だと思われたいのだ。」
 その図書館に、イルマの設計本はありませんでした。イルマは人間になりきれない、かといって動物ではない。彼こそ、原宮が思う『除け者』だったのです。
 しかし、イルマは原宮の設計本から「原宮、獣ヶ淵でイルマに出会う」という文章を見つけ出します。こうして自分の存在を確認することができたイルマは、原宮にこう言います。「本当はノケモノなんていやしない。そう思う人がいるだけだ。」  この一言が、私の心に強く響きました。周りに流され、周りから除け者になることを恐れていた自分。自分を強く持つことが大事なのだと、そう思わせてくれました。
 原宮は、物語の始まりと終わりでは全く違った人間に見えます。異世界で出会った狩人に、自分の話をしろと言われても、初め原宮は肩書きのことしか話せませんでした。しかし再び狩人に会うと、自分の過去、昔の趣味…1人の人間『原宮慎平』を語れるようになっていたのです。原宮を私と置き換えた時、私はこんな風に語れるのだろうか。不思議と自分と重ねて観てしまう作品でした。  舞台の上の屏風に映される、何枚もの美しい絵。余りのパーツで実際に作られた、ノケモノたち。物語を綺麗に染め上げる、魅力溢れる音楽。そして、小林賢太郎が手がけた物語。美術、音楽、演劇。この舞台は、これらの3つの芸術を1度に、どれも劣ることなく堪能させてくれました。
 役者は、音尾琢真、辻本耕志、高橋良輔、小林賢太郎の4人。しかし登場人物は10以上。役者の人数など忘れてしまうくらい、それぞれが個性豊かで、皆譲らないキャラクター設定でした。その中でも、印象に残ったのは音尾琢真さん。どこにでもいる普通の人間という役は、どんな役よりも難しいと思います。普通であるが故に目立たないのではと思われますが、他の登場人物のキャラクターが濃いため、原宮がより目立って物語の主人公としてすんなりと頭の中に入ってきました。4人のバランスはとても絶妙で、その中でも難しい役どころを演じた音尾琢真さんは、素晴らしい俳優さんだと思います。
 また、シリアスな内容の中にも、コメディ部分は沢山詰め込まれていて、全く飽きを感じさせない作品構成でした。
人々の中に潜む自己矛盾。隠された本当の自分。それを見つけ出してくれた作品だと、私は思います。

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