高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第二回グランプリ 受賞作

優秀賞

観客に突きつける「人生の希望」

豊島岡女子学園高等学校 3年 小林礼奈

 12月26日に観劇した「ロンドン版ショーシャンクの空に」は緊張感と調和のある舞台であった。
 物語は佐々木蔵之介氏演じる元銀行員のアンディが冤罪によりショーシャンク刑務所に投獄されるところから始まる。はじめは孤立していたアンディは、國村隼氏演じる刑務所内で”配達屋”をする囚人レッドや小林勝也氏演じる図書係の囚人、板尾創路氏演じる刑務所長などと関わり、年月を重ねるうちに囚人たちの中でも一目置かれる存在となっていく。そして自分は無実だと信じるアンディは遂に脱獄に成功する、というストーリーは知る人も多いのではないだろうか。
 舞台はまず柵を思わせるセットが出てくるところから始まる。出演者により無秩序に打たれる鉄の柵の音が、除々にひとつの統一したリズムを奏でるところで観客は一気に作品世界へと引き込まれる。柵は舞台上で単に刑務所を表すセットであることを越え、その無機質な存在、その耳にざわつきを残す金属音で囚人たちの殺伐とした精神や閉塞感、社会との断絶を表現する。特に終盤、オープニングとは対照的に柵を打つ音が除々に混沌としていく様はアンディの存在が刑務所内でも異質であること、彼自身の刑務所に居ることへの違和感を表し、舞台に緊張感を与えると同時に観客に結末を暗示している。
 また柵に囲まれた空間が長く続くからこそ、そうでないセットのシーンに新鮮さを覚える。屋外で囚人たちが仕事をするシーンでは、アンディが元銀行員の知識を生かして看守に家計的なアドバイスをする。その代わりに囚人仲間にビールを奢ることを看守に求めるのだが、彼が本来知性に溢れ、人間らしさということを強く意識している人間であることを示す印象的なシーンだ。生ぬるくても仲間と飲む久しぶりのビールに、囚人たちは長らく忘れていた癒しを覚える。その姿は彼らが抱くことを禁じられ、封じてきた生き生きとした心を取り戻しているかのように見える。このシーンでの背景の青空は眩しい。
 ではアンディの思う人間らしさとは何か。それは「言葉を大事にすること」だ。彼は刑務所に図書館を作るよう要求する。また、三浦涼介氏演じる若き囚人が高卒認定試験を受けるのを勉強面から支える。アンディは彼を励まし続け、その先にある輝かしい未来を想像させる。彼は刑務所内でも徹底して言葉や文化に触れることを求め、そこに自分の心の在りどころを見出そうとしている。それは彼がもともとエリートであり、十分な教育を受けているからこそ、言語に触れることが人間らしさに繋がるという意識が芽生えるのだろう。だがそうでない人間は彼のように上手くはいかない。弱者はいつもこぼれ落ちてしまう。実際には若い囚人は刑務所長に嵌められて獄死し、また長年刑務所で図書係をしていた老囚人は、結局釈放されても社会に居場所がないと訴える。理不尽なことを要求するだけで囚人の未来を考えようとはしない刑務所長。彼はアンディさえも自分のために利用するが、彼の冷酷さは社会の犯罪を犯した人間への厳しさを象徴する。このリアリティが、アンディや彼から影響を受けたレッドが持ちえた「希望」と対比されて作品をより現実的で多重的にしている。多重さはそして佐々木氏の演技の中にもあり、柔らかなその外見、品と知性を感じさせる立ち姿とは裏腹に何処か冷たさを感じさせる。それは自分は本来此処にいるべき人間ではないという意識から来ており、それが彼にとっての「希望」の所在なのだ。この意識さえも彼がエリートであることからこそ生まれる意識であり、ここにも社会の歪みを感じ取れる。
 白井晃氏は「希望」の作品とも言われる今作を派手な演出で泣かせるのではなく、淡々と演出したことにより、観客に真の人生の希望とは何か、人間らしさとは何かを考える余裕と余韻を与えた。終演後も自分の人生を振り返りながら考えたい、じっくりと味わいたい作品だ。

ページTOPへ