高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第二回グランプリ 受賞作

優秀賞

「暴走ジュリエット」 現代に息づくシェイクスピアの作品

東京大学教育学部附属中等教育学校 2年 伊賀彩夏

 制服。一体どれだけの人がそれを着たことがあるのだろうか。きっと袖を通したことはないという人の方が少ないくらい一般的な服装だろう。しかし、学生という立場から離れればそれを着ることはない。まさに思春期の証明とも言うべき服装だ。
 さて、女性のみでシェイクスピアの作品を上演しようという、劇団柿喰う客主宰の中屋敷法仁による女体シェイクスピアシリーズ。そのNO.005である「暴走ジュリエット」では、登場する青少年たちは皆制服を身につけている。ロミオ含むモンタギュー家の人間はブレザーを、ジュリエットのいるキャピュレット家はセーラー服や学ランといった風に 、だ。「ロミオとジュリエット」といえば美しく着飾ったジュリエットが家のベランダからロミオと会話するシーンが印象的だが、これでは随分現代的だ。はたしてどうなるのか。そう考えるなか、「ロミオとジュリエット」通りに舞台は進んでいく。
 と、思っていると、この作品では登場人物が随分現代的に喋る。ジュリエットがロミオに「モンタギューの名を捨てて。」とねだるシーン、この作品のジュリエットはこう言うのだ。「名前なんてポイして、そしたらあたしも名前をポイする!」……これだけだとふざけたジュリエットだ、と思う人もいるかもしれない。しかし、その現代化のバランスが絶妙なのだ。きちんと茶化されずに観たいシーンはそのままに、勢いの欲しいシーンに台詞の変化が盛り込まれている。そのため違和感もなく、むしろ一つの面白味として鑑賞できる。
 もちろん台詞だけでなく、冒頭に述べた衣装もこの舞台を構成する一つの味であろう。イタリアの都市ヴェローナ、その遠く離れた都市で起こったこの出来事が、この制服のおかげで随分近づきやすくなる。登場する若者たちの「暴走」の熱さを、より身近に感じることができる。
 ここで音響と舞台美術にも触れておきたい。衣装からも分かるように、学生をモチーフに扱っている本作だが、音響もそれにのっとり学校のチャイムをアレンジしたものが使われている。では学生にとってチャイムはどういう存在であるか。私は「逆らえないルール」なのではないかと考える。学生は、基本的には何があってもチャイムに逆らって生活することはできない。「暴走ジュリエット」の世界でも、きっとそうなのだろう。チャイムのような「どうしても逆らうことのできない運命」がジュリエットたちの努力むなしく、この物語を悲劇へと導くのだ。そう考えると舞台奥の赤い蜘蛛の巣のようなセットも、そんなからめとられた「運命」を感じさせるように思える。
 そしてなにより語らなければならないのは、ジュリエット役の佃井皆美とロミオ役の瀬戸さおりについてだろう。女体シェイクスピアというだけあって、女性に焦点をあてた「暴走ジュリエット」。そのジュリエットを佃井皆美はのびのびと演じあげている。特に秀逸なのは、ジュリエットの変化をきめ細かに表現している点だ。はじめは恋も知らぬ、無垢で無邪気な少女であったのが、ロミオと出会い恋を知り、最期には少女の殻を捨て、「女性」としての覚悟を決める……。序盤の大胆な演技からは想像もできない、終盤の佃井皆美の表情には、思わず息をのんだ人も多いのではないか。
 そして「ロミオとジュリエット」を語るうえで欠かせないロミオ。しかしこの作品はあくまで「暴走ジュリエット」。ジュリエットを描くこの作品で果たして瀬戸さおりはどうロミオを演じるのかと思っていたが……。とにかく素晴らしいものだった。男性的とはとても言えないような、どこか線の細そうな瀬戸さおり演じるロミオ。だからこそなのか、佃井皆美のジュリエットの決意が対比して強く表れ出る。けれど、か弱いだけでなく、ロミオの芯の強さもよい具合に見える。そんな、ジュリエットを立てながらも、強く印象に残るロミオだった。
 「ロミオとジュリエット」が書かれた当時、女性が演劇をするなんて考えられない時代だった。それがいつからか男女ともに演劇をするようになり、とうとう女性だけでこの作品を演じられる時代になった。しかしその時代の移り変わりとともに、シェイクスピアについて馴染の薄い人が増えているのも事実だ。たしかに歴史的背景や文体の難しさから関わりにくい点もあるかもしれない。けれど、シェイクスピアの作品自体は、現代でも楽しめるものが多い。そんなシェイクスピアの作品の面白さを、演出の中屋敷法仁は、最近よく注目される「女性の強さ」といった観点から、「学生」といった身近なモチーフを使い、非常にわかりやすく構成しなおしている。シェイクスピア作品を好む方にはもちろん、シェイクスピア作品を観たことがない方にこそ観てほしい、そんな作品になっている。
 中屋敷法仁による女体シェイクスピアシリーズ、今後もまだまだ上演予定らしい。次はどのような舞台を観ることができるのか。今から楽しみだ。

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