高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

第一回グランプリ 受賞作

優秀賞

深く掘り下げた新古典『マクベス』

渋谷教育学園幕張高等学校 1年 近澤璃希

 言わずと知れたシェイクスピアの「四大悲劇」の一つ『マクベス』、今回はそれが長塚圭史の演出によってより色濃くなった。休憩込みの三時間の重厚な時間を、マクベスたちとともに過ごした。

 舞台配置は、薄汚れた六角形の島舞台を客席が取り囲む形になっていた。客席には緑色の傘が配置されている。役者も小道具では傘を活用していて、それはたたんだ状態では剣、開いた状態では反乱軍の隠れ蓑の枝として役割を果たしていた。「隠れ蓑の枝」とはすなわちバーナムの森のことだが、ここでは観客も手元の傘を開くことで森に参加することができる。緑色に染まった観客席が舞台を囲む様子は圧巻だ。

 舞台の両側少し離れたところには蛇口が設置されていて、流血シーンでは流れる水が赤くライトアップされることで血を表現していた。台からは煙を出すこともできて、バンクォーの幽霊を表現するときには彼の周りを煙で巻いて青くライトアップする方法がとられた。ビジュアルからより想像を膨らませるような工夫が至る所に為されていて、観客の好奇心を絶えさせない。

 まず劇への導入が面白い。劇の進行役と、客席に座っている魔女たちが多少の掛け合いをしながら、照明は次第に明るさを落とし、魔女たちは「きれいはきたない、きたないは…」の台詞を口にしながら舞台へとむかう。この、魔女たちが客席に居座っているのがいい。長塚も「予言を与える魔女たちは観客そのものの化身」と解釈しており、それは観客の、マクベスという一人の悲運な人間の凋落を望み、圧迫したいという欲望の権化である。

 また、ラストでマクベスの首が切られたのち、観客の上を巨大な「首」が運ばれた。二階席にいた私の方にはまわってこなかったので見下ろすようにその様子を眺めていたが、人の首が人の間を渡されていく光景は見ていていい気はしない。正直少しひいてしまう。しかし、バーナムの森といい魔女といい、演出家の意図はやはり「観客の身勝手な欲望」を具現化することにありそうで、そうなるともはやこの演劇は、それ自体が「純文学」チックな色彩を帯びているようにさえ見える…。

 と、重苦しい話になったが、実際の劇では、古典戯曲のもつ重苦しさを和らげるように工夫もしてあった。門番が人を城内に入れるシーンでは、舞台に近い観客にアメ横の商人みたいな口ぶりで話しかけており、話しかけられた客も困ったように笑いながらうんうんうなずいていた。役者と客で何かしらのやりとりがあると、場の空気もゆるむようだ。他にも、マクベスと魔女たちの二回目の対話で「お前らに呪いをかけてやるッ!」と全身で呪いをかけるポーズをとる堤真一の姿には失笑してしまった。殺陣も見応えがあり、特に追い込まれたマクベスが攻め来る反乱軍を次々と蹴散らすところは、身のこなしや剣の捌き方が非常に巧みだった。

 しかし、その元気さからは考えられないほど、負の面に関する表現がとてもできていた。妻に迫られてもダンカン王暗殺をためらうマクベス、バンクォーの幽霊を見てひたすら怯えるマクベス、予言に見放されて自暴自棄になるマクベス…。そういったマクベスの「弱さ」を十分に引き出せていて、それゆえ最後にマクベスが疲れた表情であたりを見回しながら闇に沈んでいく光景も悲劇的な美しさをたっぷり孕んでいる。マクベス夫人を演じた常盤貴子も、欲に視界を奪われ躍起になる様子、また一方で夢遊病にかかり罪悪感を拭い去れないでいる途方に暮れた様子を力強く表現しており、惹きつけられるものがあった。

 私が今回とても興味深く思った場面は二つあり、一つはマクダフ夫人とその息子が惨殺されるシーンである。マクダフが自分たちを捨てたと諦めている夫人と、逆に帰ってくると信じている息子。そこにマクベスの兵が彼らを殺しにやってくる。息子が殺され、さらに抱いていた赤ん坊まで地面にたたきつけられて死んでしまう。そして赤ん坊の首はその勢いで飛び、転がった。その時、すべての人間が動きを止めた。夫人も叫ばないし、兵もそのとんだ顔に視線を移している。この空白は、夫人の絶望を信じがたいくらいによく表現できており、深い感銘を受けた。

 もう一つは、マルカム王子とマクダフの言葉のやりとりだ。マクダフの反乱の誘いを、マルカムはひたすら自分を卑下することで回避し、マクダフが怒って帰りそうになったところで表情を一転させて自分の進めてきた計画を打ち明ける。このマルカムを演じた小松和重の役作りがとてもうまく、気さくかつ頼もしいマルカムとなっていた。

 外国の古典ということで若干避けがちだったシェイクスピア作品だが、今回の演劇は時代や国境を越えた普遍的な人間の心情が表現されていた。このような劇をより多くの人が観れば、古典文学への壁もだいぶ取れるだろうと考える。

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