高校生による舞台芸術公演の劇評(レビュー)を募集

劇評の書き方

扇田昭彦(演劇評論家)


 劇評の書き方は、書き手によってさまざまです。決まった書き方、模範的なマニュアルがある訳ではありません。
以下は、私(扇田)が演劇評論家として40年以上、新聞、雑誌などで多くの演劇評、ミュージカル評を書いてきた経験に基づく、私流の劇評の書き方です。あくまで私流の劇評の基本姿勢なので、ほかの人にこれに従うよう求めるものではありません。劇評の書き方は多様で、自由です

◆劇評とは

 劇評とは、実際に生で見た舞台(演劇、ミュージカル、ダンス、オペラなど)について書く批評(評論)、あるいはエッセイ(随筆)です。
 その内容はさまざまです。例えば、
① その舞台についての評価(見応えのある舞台だったか、あるいは失望した舞台だったなど、評価はさまざま)を軸にするもの。
② 上演された作品のテーマ、作品で描かれた題材、問題(社会問題、歴史的問題など)を中心に論じるもの。テーマ批評。
③ 戯曲(劇作家)、演出(演出家)、演技(俳優)、音楽(作曲家、演奏家、指揮者)、舞台美術(装置、照明、衣裳、音響など)などの魅力と成果について書くもの。
④ その舞台を見て筆者が感じた感動、個人的な思い、回想などを書きこむ劇評。

実際の劇評は、これらのさまざまな要素を複合したものがほとんどです。

◆劇評と感想文の違い

 劇評は、はじめから自分以外の読者を想定して書くものです。つまり、まだその舞台を見ていない人たちにも、ある程度、舞台の様子が想像できるように書くことが望ましい。
 その点が、日記や普通の感想文とは違います。

◆何を軸に劇評を書くか

 ライブの舞台についての劇評は、活字の小説、詩についての文芸批評、絵画、彫刻などの美術批評とは大きく違います。
 舞台は、テキスト(戯曲、脚本)を元に、演出、演技、音楽、装置、照明、衣裳など多くの要素が加わって構成される複雑な表現の多面体です。しかも、演技やダンスなどは日々微妙に変わり、同一ではありません。劇評は、これらの多様で豊かな表現の複合体を見た上で、細部を意識しつつ、筆者がその舞台全体をどう受け止め、どう感じ、どう評価するかを、まとめて、整理して書く行為です。舞台を見た後で、何を中心的な軸として劇評を書くかを考える必要があります。
 ただし、劇評はどんな形も可能なので、例えば、その舞台に触発されて筆者が思い出した自分の過去の体験、エピソードを導入部として劇評を書くこともできます。

◆描写力のある劇評の勧め

 劇評とは、実際に上演された舞台の上で起きたこと、表現されたことについて書くものです。戯曲の筋を書いただけでは劇評になりません。劇評を読めば、舞台を見ていない読者にも、ある程度、舞台の様子や出来栄えが分かるような、なるべく具体的な描写力がある劇評が望ましいことになります。
 俳優の演技についても、字数の余裕があれば、ただ「すばらしかった」とか「好演」と書くのではなく、どういう肌合いの演技で、どういう点が魅力的だったのかを具体的に書き込むと、読者のイメージが広がります。印象に残った俳優の名前も忘れずに。
斬新な舞台装置なら、具体的にどういう装置だったのかを、舞台美術家の名前とともに書きこむといいと思います。舞台の視覚的イメージを忘れずに。

◆文章は魅力的に

 劇評の文章はなるべく分かりやすく、明快に、しかも魅力的に。書き手の個性をさりげなく押し出すのもいいと思います。できれば、ユーモア感覚もほしいところです。
 つまり、読み手を退屈させずに、面白く読んでもらう工夫をすること。
 読みやすくするために、改行を多くするのもいい工夫です。

◆筋の説明について

 劇評を書く場合、作品(戯曲、テキスト)の筋、物語をある程度、書きこむことが必要になります。特に新作劇の場合は、物語の要約と説明がまったくないと、劇評の趣旨が読者に伝わりにくい。
 ただし、作品が有名な古典劇、例えば『ハムレット』『ロミオとジュリエット』のような場合は、ストーリーの説明は不要です。

◆演出、演技に注目を

 劇評を書く場合、上演された戯曲を読むことが出来る場合は(出版、雑誌掲載、会場での販売など)、上演前か上演後に、なるべく戯曲を読む方がいいです。
 戯曲を読むと、演出家、俳優、美術家らがその作品をどう解釈し、どう表現したかが分かり、深みのある劇評を書くことができます。

◆批判の作法

 見た舞台に対して強い批判がある場合は、劇評で批判をきちんと書く必要があります。ある程度、書かれる側も納得させる、説得力のある批判が必要です。
 ただし、批判を書く場合でも、劇作家、演出家、俳優らを個人的に中傷するような表現は控えること。批判する場合でも、舞台を作った人たちへの敬意を忘れないことが大事です。特に若い才能に対しては、その才能を摘むような全面否定の批評は控えること。

◆早目の執筆

 劇評を書く場合、観劇後、舞台の細部の印象が鮮明に残っているうちに、なるべく早めに書き出す方がいい。観劇中に簡単なメモを取ったり、舞台装置のスケッチを書いたりするのも役に立ちます。

◆創意ある劇評を

 以上のように、バランスのいい、目配りのいい劇評が標準形ですが、そうした枠にとらわれない、自分自身のユニークな視点や印象を面白く語ってみせる型破りの劇評も十分ありえます。これまでにない、創意ある劇評を期待します

【質疑応答から】

●劇評の長さはどのくらいが理想ですか。

 新聞に掲載される劇評は大体800字程度ですが、この長さは短すぎて、大変書きにくい。長い方が自分の書きたいことを書くことができます。文字制限が指定されている場合、短い文章の中で書きたいことをまとめるのは大変ですが、1600~2000字あればまとめやすいでしょう。

●劇評を書く作品は何を基準に選べばいいのでしょうか。

 心に残った、書きたいと思う作品について書くことが一番です。  

●文章のスタイルは、作品の内容と合っていないといけないですか。

 軽い語り口だと喜劇の劇評しかできない、というわけではありません。作品によって自身の語り口を変えることはありません。

●自分がスタッフとして関わった作品の劇評を書いてもいいですか。

 スタッフとして関わったことを劇評のはじめに明らかに書きましょう。ただ、身びいきな批評であると思われることも覚悟しなくてはなりません。

●劇評を書くために作品を何回も観た方がいいのですか。

 演劇の舞台は日々変わるものだと思います。役者のコンディション、自分の座る客席の位置によっても、受ける印象は随分と変わるものです。それを知る意味でも、一つの作品を複数回観る意味があります。
 また、私が劇評を書く場合、ダブルキャストであれば、なるべくそれぞれの俳優が出る舞台を観るようにしています。

●作品のホームページに記載されているあらすじを引用してもいいですか。

 そのまま書き写すのではなく、場面の説明などの抜粋などであれば、あまり問題はないでしょう。

●ミュージカルのような大作と小劇場の作品だと、劇評を書くときに違うことはなんですか。

 私の場合、劇評を書く上で、二者に大きな差はありません。

●映像資料を観て書いてもいいですか。

 再演作品であれば、ビデオなど初演の映像が手に入ることもあるでしょう。劇評を書く際の参考に記録映像を見るのは構わないと思います。ただし、劇評の対象はあくまで生の舞台なので、映像の印象だけで劇評を書くのはよくありません。

●劇評を書く時に気をつけていることはなんですか。

 人名など、事実を誤記しないように気をつけています。例えば、脚本では描かれているシーンが上演時には、カットされていることもあります。自分が観たことについて書くようにしなければなりません。
また、私は俳優の演技についてもなるべく書くようにしています。劇評の中で俳優についてまったく言及していないのは、さみしいですね。

●劇評はどこで読めますか。

 新聞、演劇雑誌や小劇場レビューマガジン ワンダーランドで読むことができます。また国際演劇評論家協会(AICT)日本センターが発行する演劇批評誌「シアターアーツ」もネットで劇評を公開しています。

レクチャーの様子

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